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2009/09/25
19:14:37
道弘と若葉の喧嘩はどうやら数日前からのことらしい。言い争っている姿が何件か見られている。それが今日、爆発したということだ。
昇は道弘と同じクラスでありながら、全く気付いていなかった。
大紀に振り回されていて、それどころではなかったのが正しい見解である。そして、他の人たちも昇が知らなかったことについては別段不思議ではなかったようだ。腑に落ちない部分もあるが、事実昇は知らなかったのだから、どうこう言える立場ではない。
問題なのは、喧嘩の原因を誰も知らないということだ。
売店の喧嘩では、どちらかと言えば若葉の方が声を荒らげていた。とすると、道弘の何かが彼女を怒らせているのかもしれない。ただ、別の現場では道弘も怒っていたところが目撃されている。
昇は、ちらと席に座っている道弘を見た。
普段通りの彼に見える。
そもそも、昇の数少ないまともな友人である。奇異な部分はないはずだ。そこは自信を持って言える。…悲しくなってくるのはこの際無視することにする。
考えても埒が明かない
昇は机の中からあるものをこっそりと取り出した。
教壇では教師が黒板に古文の文法を書いている。それを書き写しながら、取り出した小銭入れを眺めた。
昇が持っているものと全く同じものだ。違うのは、中身が入っていないということ。むしろそれは不信感を増加させる。桜はこの小銭入れをどこで手に入れたのだろう。聞き忘れたのは大きなマイナスポイントだった。
仮に結のものだったとしたら、彼女が意図して昇と同じものを所持する可能性は低いので、単なる偶然だろう。わざと同じにしていたら、どうしようか。
昇は机の中に小銭入れをしまうと、頭を抱えた。
考えても分からないことが多すぎる。
せっかく大紀も欠席の日だというのに。結局は疲れるようなことが起きてしまう。昇は自分の運気を呪った。自分ぐらいしか攻撃対象がいないのも、みんな欠席しているからだ。
……なんだよ、全く。
心の中で毒づく。
同時に授業終了のチャイムが鳴った。
教室の中が一気に解放された空気になる。ざわつく生徒たち。教師が日直に合図をする。
「起立、礼!」
ようやく一日が終わった。
昇は礼の体勢から顔をあげた。今日は早く帰ろう。心に決める。
だが。
顔をあげた昇の視界に、嫌な人物が入った。
「げっ」
思わず声が出てしまう。
「随分な反応じゃないか」
そう言いながら昇に近づいてきた嫌な人物――山村大吉は昇を睨みつけてきた。
授業が終わってすぐに教室に入ってきた大吉に他の生徒の視線が集まる。しかし、自分に関係のないことだと分かると、時に気にかける様子は見られなかった。……というのはいつも通りのことだ。いつもと違うのは、興味を示すはずの大紀がいないことだ。
「大紀がいないことがこんなに惜しいとは……」
その事実が昇にのしかかる。大紀でも大吉よりはましかもしれない。
「何をぶつぶつ言っている?」
大吉が口を尖らせた。怒りのオーラが周辺に漂っている。
昇は考えた。
何故こいつは怒っているのだ。最近話をした記憶はないから、直接原因となるようなことは思い当たらなかった。
「…何の用だ?」
目をそらしながら昇は声を絞り出した。
それを聞き、不敵な笑みを浮かべる大吉。
「俺はお前に決闘を申し込む!」
大げさに拳を天に突き上げながら、高らかに宣言した。
一瞬静まり返る教室。
そして昇に憐れみの視線を投げつつ、普段の騒がしさが戻ってくる教室。
「なんで決闘なんかしないといけないんだよ」
「問答無用!」
ダン!!
大吉は突き上げた拳を勢いよく机に叩きつけた。凄みを利かせた表情で昇に顔を近づけてくる。
「ちょっと待て!俺がお前に何をしたって言うんだ!!」
さすがの昇も頭に来た。大吉をにらみ返す。
これ以上訳の分からないことにつき合っていられるか。
すると、大吉は急に勢いをなくした。
「そうだよな……お前には分からないかもしれない。幸せの中にあっては、その裏で不幸な気持ちになっている奴がいるということをな」
「は?」
「とにかく詳しい話も含めて今から一時間後、中町公園に来い。そこで全てに決着をつけようじゃないか」
大吉は言い終わると同時に教室から走り去って行った。
相変わらず全く話が見えない。
中町公園に行くべきかどうか、昇は本気で悩んだ。
昇は道弘と同じクラスでありながら、全く気付いていなかった。
大紀に振り回されていて、それどころではなかったのが正しい見解である。そして、他の人たちも昇が知らなかったことについては別段不思議ではなかったようだ。腑に落ちない部分もあるが、事実昇は知らなかったのだから、どうこう言える立場ではない。
問題なのは、喧嘩の原因を誰も知らないということだ。
売店の喧嘩では、どちらかと言えば若葉の方が声を荒らげていた。とすると、道弘の何かが彼女を怒らせているのかもしれない。ただ、別の現場では道弘も怒っていたところが目撃されている。
昇は、ちらと席に座っている道弘を見た。
普段通りの彼に見える。
そもそも、昇の数少ないまともな友人である。奇異な部分はないはずだ。そこは自信を持って言える。…悲しくなってくるのはこの際無視することにする。
考えても埒が明かない
昇は机の中からあるものをこっそりと取り出した。
教壇では教師が黒板に古文の文法を書いている。それを書き写しながら、取り出した小銭入れを眺めた。
昇が持っているものと全く同じものだ。違うのは、中身が入っていないということ。むしろそれは不信感を増加させる。桜はこの小銭入れをどこで手に入れたのだろう。聞き忘れたのは大きなマイナスポイントだった。
仮に結のものだったとしたら、彼女が意図して昇と同じものを所持する可能性は低いので、単なる偶然だろう。わざと同じにしていたら、どうしようか。
昇は机の中に小銭入れをしまうと、頭を抱えた。
考えても分からないことが多すぎる。
せっかく大紀も欠席の日だというのに。結局は疲れるようなことが起きてしまう。昇は自分の運気を呪った。自分ぐらいしか攻撃対象がいないのも、みんな欠席しているからだ。
……なんだよ、全く。
心の中で毒づく。
同時に授業終了のチャイムが鳴った。
教室の中が一気に解放された空気になる。ざわつく生徒たち。教師が日直に合図をする。
「起立、礼!」
ようやく一日が終わった。
昇は礼の体勢から顔をあげた。今日は早く帰ろう。心に決める。
だが。
顔をあげた昇の視界に、嫌な人物が入った。
「げっ」
思わず声が出てしまう。
「随分な反応じゃないか」
そう言いながら昇に近づいてきた嫌な人物――山村大吉は昇を睨みつけてきた。
授業が終わってすぐに教室に入ってきた大吉に他の生徒の視線が集まる。しかし、自分に関係のないことだと分かると、時に気にかける様子は見られなかった。……というのはいつも通りのことだ。いつもと違うのは、興味を示すはずの大紀がいないことだ。
「大紀がいないことがこんなに惜しいとは……」
その事実が昇にのしかかる。大紀でも大吉よりはましかもしれない。
「何をぶつぶつ言っている?」
大吉が口を尖らせた。怒りのオーラが周辺に漂っている。
昇は考えた。
何故こいつは怒っているのだ。最近話をした記憶はないから、直接原因となるようなことは思い当たらなかった。
「…何の用だ?」
目をそらしながら昇は声を絞り出した。
それを聞き、不敵な笑みを浮かべる大吉。
「俺はお前に決闘を申し込む!」
大げさに拳を天に突き上げながら、高らかに宣言した。
一瞬静まり返る教室。
そして昇に憐れみの視線を投げつつ、普段の騒がしさが戻ってくる教室。
「なんで決闘なんかしないといけないんだよ」
「問答無用!」
ダン!!
大吉は突き上げた拳を勢いよく机に叩きつけた。凄みを利かせた表情で昇に顔を近づけてくる。
「ちょっと待て!俺がお前に何をしたって言うんだ!!」
さすがの昇も頭に来た。大吉をにらみ返す。
これ以上訳の分からないことにつき合っていられるか。
すると、大吉は急に勢いをなくした。
「そうだよな……お前には分からないかもしれない。幸せの中にあっては、その裏で不幸な気持ちになっている奴がいるということをな」
「は?」
「とにかく詳しい話も含めて今から一時間後、中町公園に来い。そこで全てに決着をつけようじゃないか」
大吉は言い終わると同時に教室から走り去って行った。
相変わらず全く話が見えない。
中町公園に行くべきかどうか、昇は本気で悩んだ。
2009/09/01
21:52:49
大吉が売店に向かっていると、廊下を大勢の生徒が歩いていた。昼休みも終わりそうな時間なのに、だ。
しかも、売店の方からやってきているようだ。
これはもう飲み物も売り切れているかもしれない。
大吉は少し歩調を速めた。
程なくして、売店が見えた。売店の前には二人ほどしかいない。そして、売り物はまだ残っているようだ。安心して大吉は歩調を緩めた。
「ん?」
売店の前にいる二人を見て、大吉は凍りついた。
片方は中原昇だ。奴とは以前徒競走の対決をして打ち負かしたことがある。いわば宿敵でもある。
そしてもう片方。あれは……
弓月桜ではないか。
大吉は頭が混乱してきた。
何故、昇と桜が二人で売店にいるのだ?
そして、大吉は更に絶望的な事実に気がついた。二人の手にしているものを見る。
「お、同じ……」
そう。同じ小銭入れを持っている。つまりは「おそろい」だ。
「おそろい」…それはとても甘美な響き。
昇なんかが……?
大吉は考えを整理しようとするが、状況に追いつかない。
昇が何か紙切れのようなものを持っているのも見える。何かが書かれているようだ。つまりは「秘密のやり取り」だ。
「秘密のやり取り」…それもとても甘美な響き。
大吉は正常な判断ができなくなっていた。
「う、うわあぁぁ!」
踵を返すと、大吉は走り出した。この場所から離れなくては。一刻も早く。現実を受け入れたくない。
もと来た道を全力で走る。
掲示コーナーも通り越し、あっという間に遠ざかっていく。
一陣の風が巻き起こり、大吉が先ほど凝視していた桜の花が描かれたポスターが揺れる。そのポスターは「弓月桜非公式ファンクラブ」の紹介ポスターだった。
昇は間近で聞こえた不気味な叫び声に眉を寄せた。
「今の声は何だ?」
見回すが、声の主らしき人影は見えない。
「さぁね。気持ち悪い」
桜は声のした方を全く見ようとはせず、静かにつぶやいた。
しかも、売店の方からやってきているようだ。
これはもう飲み物も売り切れているかもしれない。
大吉は少し歩調を速めた。
程なくして、売店が見えた。売店の前には二人ほどしかいない。そして、売り物はまだ残っているようだ。安心して大吉は歩調を緩めた。
「ん?」
売店の前にいる二人を見て、大吉は凍りついた。
片方は中原昇だ。奴とは以前徒競走の対決をして打ち負かしたことがある。いわば宿敵でもある。
そしてもう片方。あれは……
弓月桜ではないか。
大吉は頭が混乱してきた。
何故、昇と桜が二人で売店にいるのだ?
そして、大吉は更に絶望的な事実に気がついた。二人の手にしているものを見る。
「お、同じ……」
そう。同じ小銭入れを持っている。つまりは「おそろい」だ。
「おそろい」…それはとても甘美な響き。
昇なんかが……?
大吉は考えを整理しようとするが、状況に追いつかない。
昇が何か紙切れのようなものを持っているのも見える。何かが書かれているようだ。つまりは「秘密のやり取り」だ。
「秘密のやり取り」…それもとても甘美な響き。
大吉は正常な判断ができなくなっていた。
「う、うわあぁぁ!」
踵を返すと、大吉は走り出した。この場所から離れなくては。一刻も早く。現実を受け入れたくない。
もと来た道を全力で走る。
掲示コーナーも通り越し、あっという間に遠ざかっていく。
一陣の風が巻き起こり、大吉が先ほど凝視していた桜の花が描かれたポスターが揺れる。そのポスターは「弓月桜非公式ファンクラブ」の紹介ポスターだった。
昇は間近で聞こえた不気味な叫び声に眉を寄せた。
「今の声は何だ?」
見回すが、声の主らしき人影は見えない。
「さぁね。気持ち悪い」
桜は声のした方を全く見ようとはせず、静かにつぶやいた。






